第十四話「no title」『もう…誰も信じられない。ステアさん…貴女でさえ。』『コケット…』 カタカタと震える手で短刀を構えるコケット。その目には大粒の涙が溢れていた。 どうしてこんな事に…そう思いながらステアは泣くコケットを見ると、両手を腕の前で組み、強く目を瞑った。 ※ 『嫌な…夢を見た…』 ベッドの上に座り、身支度をするステア達の背中をコケットは呆然と見つめた。 「…どうした?コケット…」 未だに身支度の準備すらしないコケットを、リーフが気付いた。 リーフの声に、ステアも後ろを振り向く。 「大丈夫?顔色、悪イヨ…?」 「いえ…何も…」 二人の視線から逃げるように、コケットは顔を逸らすと、服を着替え始めた。 それから数分後… 宿の食堂で先に集まって、食事を取っていた男性陣が上から降りてきた女性陣気付く。 「遅かったな…」 「寝坊でもしたのか?」 笑いながら、からかうツバキ。 「寝坊違ウヨー」 ぷぅっと膨れるステア。二人を見ていたアシュタルは、ステアの後ろで、隠れるように身を潜めていたコケットに気が付く。 「コケット…どうした…?」 アシュタルに声を掛けられ、コケットはアシュタルの顔を見上げた。 その瞬間、コケットの脳裏に今朝見た夢の記憶がフラッシュバックを引き起こす。 血を吸った大地に倒れる数人の影。 姿はよく見えなかったが、その中に呆然と立ち尽くす自分。 足元には自分を拾い、育ててくれた恩人が傷付き倒れていた。 紛れもなく、その姿はアシュタルの姿だったのをコケットは覚えていた。 始めは自分だけしか見えていなかった。 日が増すにつれ、その夢は鮮明になっていた。 夢が鮮明になってくると言う事は、夢で起こった事がそのまま現実になる前触れだった。 昔から予知夢を見ていたコケットは、その事を恐れて、言い出せずにいた。 「さて、行きますか。」 ツバキの声に、コケットの意識は現実に引き戻される。 ステア達が普通通り出発をした…する筈だった。 「もう一日…出発を延ばしませんか…?」 と、今日に限ってコケットが出発を嫌がったのだ。 『何故か?』と言う理由…は分らない。アシュタルにも、ステアにも分らなかった。 コケットが言うのを躊躇ったのだ。 「何故?」 「ホラ、今日もお祭りがあっているみたいだし…見て回りたいなぁ…って」 「でもなぁ…」 「デモ、オ祭リ楽シソウ。一日クライ大丈夫デショ?」 「まぁ、お嬢ちゃんがそう言うなら。」 「仕方が無いな…そうしよう。」 そう言って、アシュタルは背負いかけた剣を部屋に戻しに立ち上がった。 ジャンル別一覧
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